ゲーミフィケーションの「ダブルスープ」は美味しさも倍増?~eBayにゲーミフィケーション施策は必要か~

VentureBeatが伝えるところによると、UC Santa Cruzの学生たちによってeBayにゲーミフィケーション施策が導入されるという。

EBay gamifies the auction, with a little help from UC Santa Cruz students

オークションは、カジノと並ぶ「リアルゲーミフィケーション」の二大体系であると言える。まず参加者のモチベーションの高さが比類ない。そして設定環境下におけるゴールは明確であり、外的なリワードの向こう側に、内的な価値も見え隠れしている。このようにフォーマットそのものがすでに高度にゲーミファイされている場合、そこに別のゲーミフィケーション施策を導入することは、それ自体が「wet blanket」になりかねない。

かくいう僕も、もう12年以上に渡り、熱心なeBayの利用者だ。あらゆるジャンルにおいて、趣味性がここまで高いモノが、大量に、継続的に出品され、適価(安価ではないことに注意)にオンラインで入手できる場はここしかない。特に、超のつく愛好家による出品ページは、それ自体が貴重な一次資料だったりもする。平均したらこの12年間、僕は1日あたり最低1時間以上、eBayで過ごしているのではないか。ナイジェリアで働いていたときだって、毎日2時間の巡回チェックは欠かさなかった(だって軟禁状態で暇だったし)。国が国だけに十日に一回ログイン情報がロックされて利用不可能になる(米国のサポートに電話して手動で解除してもらう必要がある)にもかかわらずだ。つまり、僕のeBayに対するエンゲージメントはとても高いのだ。

だから、このVentureBeatのヘッドラインを見て、僕は不思議に思った。eBayのシステムのどこにボトルネックがあるのだろう?それに、(あまり機能していないにせよ)すでに「ポイント」や「他者評価」というゲーミフィケーションの要素はあるではないか…。

  • ・eBayの面白さはオークション形式にあらず

そんなeBayだが、オークションよりも定額商品が主流になってきたと言われて久しい。

http://www.ecommercebytes.com/cab/abn/y11/m10/i20/s01

これは昨年の第三四半期のデータだが、売り上げの60%が定額商品とのこと。まだるっこしいオークション形式よりも、定価で確実に売買できるスタイルを好むユーザーが大半ということなのだろう。でも実際、eBayのユーザーエンゲージメントの高さは、オークションという形式にも、圧倒的な商品点数にあるのでもない。

例えばeBayの本カテゴリで「シェイクスピア」と検索すると、ペーパーバックから当時の初版本までが、アウトドアグッズのカテゴリで「パタゴニア」と検索すると、最新のソフトシェルジャケットから創業当時にスタッフに配られたごく初期のフリース(油性マジックで古いシュイナードロゴと「Shipping」という部署名が書いてある!)までが、購入可能な商品として表示される。この「想像を超えるすごい品物に思いがけず出会うことができる可能性」がeBayの面白さだと思うがいかがだろう。少しでもモノに興味がある向きなら、この体験がどれほどエキサイティングで病みつきになるものであるかご理解いただけるはずだ。

このことをゲーミフィケーションの文脈で言い表すと、「eBayとは、『モノについて知りたい』という『内的動機』によって、『自分だけのモノと人との文脈』という『内的価値』を得ることができる場所」と言える。

つまり、オークションへ参加して商品の落札を目指すことが最終目的ではないユースケースがあって、しかもそれが相当楽しい(軍資金の限られた普通のユーザーにとってはむしろこちらが主流ではなかろうか)ということなのだ。面白い商品が思いがけず出品される可能性がある以上、ユーザーは頻繁にサイトを巡回する必要がある。そこで見つかったレアな商品情報はそれ自体がいわば「リワード」であり、購入するしないにかかわらずウォッチリストに加えるだけである種の満足が得られる。商品に関する貴重な情報をローカルに保存するのもよいし、SNS上でシェアしてもいいだろう(良い情報であればシェアなどしないのがマニア心理だが)。もちろんそれが欲しければ(そして適価であれば)、購入行動に移ればよい。eBayはすでに十分にゲーミフィケーション要素にあふれている。

と、玩物喪志を地で行く僕はそんな風に考えるのだが、記事の内容はちょっと違うようだ。

  • ・それでもゲーミフィケーションを導入?


記事を読んでみると、「eBayの目指すゴールは、ゲームデザインを用いて、新たなユーザーインターフェイスを作ることにある」という。具体的には「ニッチ商品についてのマイクロコミュニティの創出、ならびに小売店やショッピングエリア向けの大きなタッチスクリーン式インターフェイスの開発を進めている」(太字は記事を和訳したもの。以下同)とある。前者については、実際に商品ページにそのようなコミュニティ生成を目的としたボタンが色々と追加されているので理解しやすいが、後者のタッチスクリーン型インターフェイスとは何を目的にしたものだろうか?しかも学生たちは、そこに顔認証システムを導入したという。

顔認証を導入すればゲーミフィケーション、という訳ではもちろんないだろうが、「インタラクティブキオスクは、新規のユーザーを取り込む際の有効なツールとなりうる」という仮説に基づいて(が、この根拠は記事中に示されていない)、「個人情報の入力がボトルネックとなる」ために、顔認証システムを導入したということなのだろう。つまりは「オンボーディングの簡略化」だ。これは確かにゲーミフィケーションの要素である。

では、学生たちはどんなゲームデザインを考え出したのだろうか。

記事には一例として、「戦いながら宝探しをするという、新しいRPGゲームを組み込む。この場合、黄金や宝石は当然出品アイテムとなり、主人公の力は商品の価値によって増大する」という案が提示されている。しかし、たとえば商品の価値はどのように決まるのだろう?あるアイテム価値が、ユーザーの趣味嗜好と連動していなければ(そしてユーザー自身が作り上げるものでなければ)、このゲームはワークしないように思える。

先に述べたように、eBayで買うことができる商品の特性として「外的(金銭的)価値≠内的(本質的)価値」というのがあり、それがこのサイトのユーザー体験にユニークな面白さを提供している。そしてその「内的価値」こそ、ゲーミフィケーションの根幹をなす概念のひとつなのだ。既存のゲーミファイされたユーザー体験の上にゲーミフィケーション施策を導入しようという今回のプロジェクトは、本来の面白さをスポイルせずにうまく「ダブルスープ」な美味しさを提供できるだろうか。ただ、いずれにせよ非常に野心的な取り組みではある。詳細な事例情報を待ちたい。