ゲーミフィケーションの実際:「釣りスタ」のソーシャルアクション

ゲーミフィケーションの実際を考える上で、既存のゲームではどのようなソーシャルアクションが提供されているかを見てみたいと思う。今回取り上げるのはグリーが提供する「釣りスタ」である。本来であれば個人的にもやり込んだゲームを例にとって説明するのがもっとも的確な投稿になろうかとは思うが、残念ながら釣りスタはやり込んではおらず、ひとしきり触ってみてわかる範囲でのソーシャルアクションを取り上げてみる。

ご存知の方も多いとは思うが、「釣りスタ」とはグリー内のソーシャルゲームでも最も初期から提供されているものである。1000万人以上のユーザが遊ぶと言われ、ファミ通から釣り★スタ 公式ガイドブックという攻略本も販売されている。モバイルゲームでアイテム課金が成立することを大がかりに示したのはこのゲームが最初と言っていいだろう。最近ではスマートフォン版もリリースされており、息の長いゲームとして楽しまれている。

このゲームは、一言で言うと「釣り」を楽しむゲームである。ユーザは川釣り、海釣りを様々な場所で楽しめる。釣り自体がアクション性のあるFlashゲームになっており、大きい魚を釣ったり、見たことのない魚を釣ることでコレクションが充実していく。プレイを重ねることで釣りの腕前が上がっていき、行けなかった釣り場にいけるようになったり、より大きな魚や珍しい種類の魚を釣ることが出来るようになっていく。

このゲームで用意されているソーシャルアクションは、以下のとおりである。なお、ゲームを先に進めると表われるものが他にもあるかもしれないがそれは記載できていない場合がある。また、やり込んでいるユーザからすると「それはそうじゃない」というご指摘があるかもしれないので、是非コメントに残しておいてほしい。

  1. 仲間に誘う
  2. ギフト
  3. 日記書込み
  4. ランキング
  5. 仲間とアイテム集め
  6. 大会
  7. チームの作成
  8. チームへ参加
  9. 釣り日誌
  10. みんなでコンプ
  11. 足跡

それぞれ、どのようなソーシャルアクションかを見ていってみよう。

1.仲間に誘う

「ツアー」など仲間と一緒に遊ぶ事が出来るイベントにおいて、協力する仲間を集めるためにグリー上のユーザを釣り仲間として誘うことが出来る。グリーの特性上、ソーシャルグラフに関わらずゲームは誰とも遊べるようになっており、ここでいう「仲間」も特に既存のソーシャルグラフ上にいる友達である必要はない。釣りスタを遊んでいるユーザであれば誰でも仲間に誘うことが出来る。仲間になると、一緒にアイテム集めが出来たり、ギフトを贈ったり受け取ったりすることが出来るようになる。釣りスタでは、初心者を誘うとアイテムが多くもらえるといった、上級者だけで固まらないように工夫がされている。また、イベントごとに仲間はリセットされるが、以前の仲間は「知り合い」として表示され、誘いやすくなっている。「仲間」と異なる「チーム」という概念もある。

2.ギフト

仲間と一緒に遊ぶイベントにおいて、アイテムを仲間に送ることが出来る。また、「ギフトショップ」にて販売されているアイテムを買って送ることもできる。ギフトショップのアイテムは有料で、もらった相手には「お返し」と表示されるため、お返しのインセンティブは働きやすい。

3.日記書込み

自分の日記(グリーユーザ全員に用意されている)にゲームのプレイ状況を書き込むことが出来る。日記は公開設定にしていれば他のユーザがそれを見ることが出来る。また、「魚拓日記」というゲーム内日記も別にある。

4.ランキング

釣りの成果に対してのランキング、イベントでのランキング、団体戦でのランキング、などさまざまなランキングが用意されている。また、ランキングではないが、レアな魚を釣ったユーザも見えるようになっている。

5.仲間とアイテム集め

イベントにおいて、仲間になったユーザと一緒にアイテムを集めることが出来る。仲間同士での成果が全体に共有されるため全員のアイテムを集めるスピードが人数分だけ速くなる。

6.大会

「大会」はイベントの1種として登場する。大会ではチームを結成し、チーム同士で釣りの成果を競う。大会ごとに賞品が用意されており、上位入賞者はそれを獲得することが出来る。また、一定条件を満たしたチームは集合写真を撮ることが出来る。

7.チームの作成

ユーザはそれぞれ、1つだけチームに所属することが出来る。1チームは30人、チーム間でランキングを競ったり、チームユーザ間でのコミュニティを作って情報交換することができる。ユーザは釣りをすることで貯まるポイントをチームに注入することでチームの団結力が上がり、その団結力の強さでチーム同士が順位を争うことになる。チームを作れるのは一定レベル以上のユーザのみ、と制限がある。

8.チームへ参加

チームを作ることが出来ないユーザでも、既存のチームに参加することが出来る。

9.釣り日誌

「釣り日誌」では、ユーザのこれまでのゲームの活動の記録を見ることが出来る。一見ソーシャルアクションに相当しないように見えるが、「記録を他のユーザに見せる」という観点でソーシャル性を持たせることが出来る。これまでの成果などが見れるのはもちろんだが、大会やツアーなどのイベントでの写真、イベントの参加証、魚拓、アドベンチャーと呼ばれるミッションクリア型イベントでの勲章、などヘビーユーザであればあるほど大きな成果が飾られることになる。

10.みんなでコンプ

「アドベンチャー」で提供されている遊びで、仲間と協力して図鑑を埋めていくことが出来、一定条件を満たすとプレゼントをもらうことが出来る。

11.足跡

他のユーザの釣り日誌を見に行くと、そのユーザの釣り日誌に自分の足跡が残る。日本のSNSではよく見る機能だが、facebookにはこの機能は見られない。


このように見ていくと、いくつかの観点で上記のソーシャルアクションを見ることが出来る。

1.飽きさせないゲーム進行

1つは、初心者を中級者に、中級者を上級者に引っ張り上げていく要素としてのソーシャルアクションである。仲間と何かをする、という活動を設けることで自分だけで楽しむということではなく仲間のために、チームのためにプレイをするという発想が出てくる。これは以前に投稿した「モチベーション3.0」とgamificationでいうところの「目的」に相当する。通常のゲームは、「一人で楽しむ」ことが目的になるのだが、ソーシャルの要素を織り込むことで「チームで楽しむ」「チームが勝つ」ことを目的にすることが出来る。また、チームへの貢献をどのようにするのかということは基本的にユーザ各自の行動に任されており、そこにはゲームやあるいはチームリーダーからの強制性の要素はない。あくまで貢献が大きかったユーザが受け取る報酬が大きい、という要素が用意されているだけである。「自律性」が確保されていることが分かる。また、チーム内での貢献度合いや他チームとの競争状況も数値化されすぐにわかるようになっている。大きな成果を上げれば、ランキング向上はもちろん写真、勲章、魚拓あるいは特殊なアバターアイテムを得ることになり、それは釣り日誌に表示されるため、いやらしくない形で自慢することが出来る。これは「上達感・達成感」につながっていく。またこの感覚が次のイベントやチーム対抗戦に参加する意欲になっていく。

このように、モチベーション向上のポジティブなスパイラルを形成する上で各ソーシャルアクションがうまく機能していることがわかる。これは、ゲーミフィケーションサミット2日目ワークショップのレポートgamification summit2日目(1) design over timeにて説明されている”Player Journey”、ゲーム進行とユーザの成熟度についての実践例ということで参考になる。このワークショップにおいては、ユーザをうまく上級者まで引っ張り上げるためのデザインとしてはコンテンツ、ユーザナビゲーション、熟練者向けの特別な活動、というような要素で説明がされていた。釣りスタでももちろんソーシャルアクション以外の部分でユーザを初心者から上級者まで引っ張り上げていくようなデザインはされているが、ソーシャルアクションがそこを大きく支えていることも見えてくる。特に、ゲームプレイのそもそもの目的を変える「チーム」という要素は強力だ。

2.「自己表現」として釣り日誌

以前のレポートgamification summit 2日目(2) design for socialを思いだしてみよう。このワークショップで説明されていた、ソーシャルをデザインする上で考えるべき要素としては「競争、協力、自己表現」の3種類であった。釣りスタにおけるソーシャルアクションを見ても、この3つにそれぞれ相当していることが見て取れる。

サミットワークショップでの説明では競争や協力の要素は比較的想像がしやすいが、「自己表現」の要素はややわかりにくかった。「自己表現」の例として紹介されていたのはユーザの自由度がかなり高く作り込めるようなハコニワ系の事例であったが、ゲームデザインによってはこの水準での自己表現が可能な要素が用意されていない場合もある。現実の使われ方を見ていると、自己表現とは自律性の表現という側面と、間接的な自慢という側面の2つを意味していることが見えてくる。これは釣りスタのようなゲームであればゲームの成果、あるいはアバターといった点で表現されることになる。

3.プレイヤータイプ別のソーシャルアクション

同じく、gamification summit 2日目(2) design for socialにて触れているBartle’s Player Types(バートルのプレイヤータイプ)を思いだしてみよう。バートルによると、プレイヤーのタイプには、キラー、ソーシャライザー、アチーバー、エクスプローラー、の4種類が存在する。キラーはプレイヤーキラー、他のユーザに攻撃的な態度を取ることを好む。ソーシャライザーは他のユーザと有効的な関わりを持つことを好む。アチーバーは、高い得点を稼いだりアイテムをコンプするような結果に出ることを好む。エクスプローラーは冒険そのもの、新しい領域を開拓するようなプロセスを好む。

3つ目の観点は、このプレイヤータイプごとにどのソーシャルアクションが向いているのかという点だ。釣りスタにおいてはキラーが好むようなソーシャルアクションは基本的に用意されていない。チームを作ってそれを維持するという役割はソーシャライザーに向いている。アチーバーは得点稼ぎ、仲間とのアイテム集めやチーム戦での大会で活躍するだろう。エクスプローラーはミッションクリア型のアドベンチャーでのみんなでコンプで力を発揮しそうだ。

このように、キラーを除く各プレイヤータイプそれぞれが活躍できるような要素がソーシャルアクションとしても用意されていることがわかる。また、一説にはグリーユーザは互いにコミュニティ意識が強くお互いに戦うような攻撃的な態度を好まない傾向があるとも聞く。キラー向けの要素がないのはこうしたことを考慮した結果なのかもしれない。もちろん、アチーバーやエクスプローラータイプのユーザはソーシャルアクション以外の一人プレイの要素でも楽しむことが出来る。魚の種類の収集、新しい釣り場の開拓といった点でもそうしたタイプのユーザを満足させられるような工夫がされている。


以上、釣りスタにフォーカスを当ててソーシャルアクションの実際を眺めてみた。結果的にみると、非常にバランスよくなおかつ効果的にゲームの中でソーシャル性が盛り込まれていることが見て取れる。最初から狙ったというよりは様々な試行錯誤を経てこの領域に至ったのだろうと推測するが、ゲーミフィケーションを考える上でも参考になるところが多い。3つの観点を整理すると、

  1. チーム戦の導入で、ゲームの目的を途中から変えることが出来、継続性をより高めることが出来る
  2. 自身の成果を他ユーザから見えるようにすることで「自己表現」欲を満たすことが出来る
  3. 各プレイヤータイプそれぞれが活躍できるような要素を用意することで幅広いユーザを引き付けることが出来る

ということになろう。特にチームという概念は強力だ。チーム同士で競争をするという要素を盛り込むことで、ゲーム自体の目的が「チームで勝つ」ことに切り替わる。これは達成状況が明確に可視化出来る目的でありながら、同時に終わりがない目的でもある。釣りスタは長期間遊ばれているゲームだが、チームの導入により一定規模のコミュニティが構築され、そのコミュニティに新規のユーザを誘因するインセンティブが既存チームメンバーから働き続ける間はその規模が維持され続けることになる。ゲーミフィケーションにおいてもうまくこのチームという要素を取り込むことが出来れば同様に非常に強力な要素となる可能性がある。チームを実際にゲーム以外の領域でどのように盛り込んでいくのかという点は、まだ正解がある領域ではないが、サービスごとに様々なアイデアが考えられそうだ。やはり、人気のあるソーシャルゲームにはそれなりの理由があり、学ぶところも多い。