ゲーミフィケーションの実際:釣りスタの課金アイテム

前回の投稿「ゲーミフィケーションの実際:「釣りスタ」のソーシャルアクション」では種々のソーシャルアクションがゲームにどのような意味をもたらしたのか、ユーザをどのように活性化させるのかということについて、釣りスタを例にとって考察を行ってみた。ソーシャルアクションに引き続き、同じく釣りスタにて課金アイテムに目を移してみよう。ユーザはどうして1本2000円もする釣竿を買うのだろうか。まず、釣りスタで購入できる課金アイテムは以下のとおりである。

釣りスタ課金アイテム分類
  種類   金額   効用
川/海 サオ/サオ 100円~2000円 釣りFlashゲームの難易度が下がる
シカケ/リール 100円~1000円 サイズの大きい魚が釣れる
エサ/ルアー 100円~1000円 釣れる魚の種類が変わる
ギフト おさかな金貨 1枚40円~50円 アバターアイテム:50枚~300枚と交換
サオ:15枚~60枚と交換
魚拓:3枚と交換
サオ 90円~480円 10回☓3箱で90円のサオなど(通常は60回で200円)
シカケ/リール 480円~520円 10回☓3箱で480円のシカケなど(通常は60回で1000円)ショップでは売っていないものもある
エサ/ルアー 140円~290円 5回☓3箱で140円のエサなど(通常は30回で1000円)ショップでは売っていないものもある
その他 魚拓 200円 釣った魚の魚拓が1回取れる

これらのアイテムはお金を払わないと買えないものと、ゲーム内ポイントである釣りポイントで交換できるものがある。また両方で入手可能なアイテムの場合、1円=20釣りポイントで換算されている。ここから、同じアイテムでもギフトとして贈る場合には10%ほど安く手に入れることが出来る。特に顕著なのは「魚拓」だ。自分で買う分には200円を払わなければ入手できないが、ギフト「おさかな金貨」経由で入手すると最も安いと120円相当で手に入れることが出来る。仲良くなったユーザがいればお互いが贈り合う手間をかければ安くつく。このゲームでは、お返しをすることが約束されているユーザ同士であれば、お互いにアイテムを贈り合う方がコストパフォーマンスが高くなるように出来ていることがわかる。

また各アイテムの効用を見ていってみよう。

サオ
サオを使うと、釣りをする際のFlashゲームの難易度が下がる。Flashゲームはいわゆる「的当てゲーム」であり、ゆらゆらと揺れ動く魚が的の中に来た時にうまくボタンを押すことで魚を弱らせ、弱り切ると釣りに成功するように出来ている。この魚の動きが遅くなったり、揺れ方が小さくなったりする効果があるのがサオである。ゲームが進んでいくと基本的に難易度が上がっていくため釣りに成功しづらくなっていくため、サオがあると効率的にゲームが進行できるようになる。エサ、シカケなどで高価なものを装備していても使用回数が決まっているため釣りに失敗するとそれらの1回分も無駄になってしまう。

ただ、このFlashゲームだが一度釣りに失敗しても実はブラウザバックをしてやり直すことができるようになっている。そのため、時間をかけて釣りゲームのテクニックを磨いたり何度もやり直すことでサオは事実上不要になる。なるべく無料でやろうとすればそのように遊ぶことが出来、かつ時間をかけられないユーザはお金を払うことでも同様の成果を得やすくなっている。このように、「サオ」は事実上の時間短縮効果のある課金アイテムとなっている。

シカケ・リール
こちらは釣れる魚のサイズに影響する。魚のサイズは得られるポイントに影響があるため、多くのポイントを得ようとするならなるべくいいシカケ・リールを持っておく方がよい。一方、このゲームでは釣りの回数に特に制限が設けられていないため、時間さえあればいくらでも釣りをすることが出来る。そのため「大きな魚を取る」ことにこだわらなければポイントを稼ぐことはやはり時間をかけることで出来るようになっている。したがって、このアイテムも事実上の時間短縮効果のあるものだ。

エサ・ルアー
これらは釣れる魚の種類に影響する。ある魚は特定のエサ・ルアーを装備していないと釣ることが出来ない。図鑑をコンプリートしたければエサ・ルアーは買わざるを得ないアイテムとなる。

これらのアイテムは、基本的に釣りポイントで交換もできるようになっているため、いずれも時間をかけて数多くの釣りをこなしポイントを貯めれば無料でそれぞれ入手することが出来る。エサ・ルアーは時間短縮効果があるものではないが、サオやシカケ・リールあるいは釣り場を工夫することでどこでどの装備で釣るのが最も釣りポイントをためやすいのかという点でゲームとしての奥深さを作ることができる。時間をそこまでかけられないユーザでもお金を払うことで同じ水準で遊ぶことが出来るようになっている。特にチーム戦という概念がある以上、時間をかけている仲間に迷惑をかけられないという心理的効果が課金アイテムの購入に向かわせるということは十分起こり得るだろう。

また、最初は無料で頑張っていても、ある程度までやり込んでいくと「時間短縮」の誘惑に駆られることは間違いない。これは個人的な体験からも言えることだが、「今まで数時間かかっていたことが、たった数百円で一瞬で終わってしまう」ということはなかなか強力な魅力に映る。

少し異なる性質であるのが「魚拓」である。こちらは釣りポイントでは交換することが出来ない。ゲーム進行には直接影響せず、魚拓がなくてもチームに迷惑をかけることはないため、特になくても困らないアイテムである。ただし、魚拓は「釣り日誌」に表示されるので、人に見せる・アピールするということが出来る。そして、せっかくレアな魚あるいは大きな魚を釣ったのであれば、記録に残しておきたいというのは自然な心情だ。ヘビーユーザであればあるほどその記録には高い価値を感じるだろう。さらに、魚拓はその魚を釣った時点でしか取ることが出来ない。期間の限定性があることはより購買を後押しすることになる。使用頻度は時間短縮型のアイテムより少ないかもしれないが、課金アイテムをなるべく買わずに時間を投入することで楽しんでいるユーザでもお金を払いたくなるアイテムとなっているのではないか。

これらを見ていくと、お金を払う意味合いとしては

  1. プレイ時間の短縮ニーズ
  2. 他のユーザへの自慢・アピールニーズ

が直接的なユーザニーズとなっている。間接的には図鑑などコンプリートニーズ、ギフトへのお返しニーズ、ということもあるだろう。これらを後押しする心理的な要因としては、相手チームに勝ちたいというのはもちろんだが、チームメンバーに迷惑をかけたくない、今しか買えない、お返しをしないことで悪い印象を持たれたくない、ということも大きいと思われる。

両要素とも、ゲーム以外の領域での応用は色々と考えられそうである。例えば自分の体験を思い出してみると、音楽CDを買うという行為において「プレイ時間の短縮」に相当することがあった。学生時代、音楽に対しての興味が深く、図書館などでコツコツと時間をかけてたくさんのCDを聞いている友人がいた。たまたま当時、私自身は割のいいアルバイトをしていたため自分で音楽CDを買うくらいのことは出来たのが、その友人と話をしていると「このCDはいいから買え」というオススメをひたすらされるのである。確かにそれを買うと満足度が高く、自然にそのオススメを参考にするようになるのだが、その友人は私が買ったCDを必ずダビングしていた。図書館では手に入れにくかったものをひょっとするとオススメしていたのかもしれない。しかしながら私にとっても時間をかけずにいい音楽に巡り合えるという点でありがたかったのも事実である。

時間短縮にお金をかける例と言うのは世の中に色々ある。専門家にコンサルティングをしてもらう、参考図書を買う、先生に教えてもらう、調査資料を手に入れる、などがそれに相当するだろう。ではゲーミフィケーションを実践する上で考えるべきことはなんだろうか。あるサービスにおいて、時間をかけたユーザが持っている知見やノウハウは何になるのか。時間のないユーザにとってそれをお金を払ってでも手に入れたいと思うものなのか。手に入れるためにはどのような仕組みを用意しておく必要があるのか。こうしたことを考えていくことで、ひょっとするとECや広告といった既存の手法とは異なるマネタイズの手法もこの中から見出すことも出来るのかもしれない。

他のユーザに自慢するという要素についても様々に例が考えられる。時間をかけたユーザしか得られない知見やノウハウは自慢のタネにもなる。「ここまでやったんだ!どうだすごいだろう」ということは、特に日本人は自分から言い出すのは一般に得意ではないが、それとなく他人にも知って欲しい、本音をいえば「すごい!」と言って欲しい、なおかついやらしさを感じさせずにアピール出来れば言うことはない、というのは正直なところだろう。いやらしくなく自己アピールをするための言い訳が用意されていれば、そこにお金を投じるユーザも出てくるだろう。

なお、本投稿を読まれた方の中で、「釣りスタはヘビーユーザだ!」という方がいらっしゃれば是非個別にインタビューをさせて頂きたい。実際のユーザの心理が掴めればより有用な知見を得ることが出来ると思う。特にどのアイテムに実際に最もお金を使うインセンティブが働くのかということは非常に興味深い。連絡を頂ければ幸いである。