読書メモ:アジャズ・アーメッド&ステファン・オーランダー「ベロシティ思考」

この本をある人のオススメで購入したのですが、著者の一人であるステファン・オーランダーはナイキ社のデジタルスポーツ担当副社長(書籍内の著者紹介より)であり、Nike+Fuelbandを作った人だということに購入後気付きました。去年の8月に出版されていたのですが、その人の本を見逃していたとは!オススメくださった方に感謝です。
「ベロシティ」というのはvelocityという英単語で、速度・スピードというような意味です。もう一人の著者であるアジャズ・アーメッドはAKQAという会社の創業者です。僕もこの会社は知らなかったのですが、日本で言えばチームラボやバスキュールのようなイメージの会社のようです。

この二人の対談形式で話が進んでいくのですが、興味深いのはこの二人の間でのNike+Fuelbandの位置付けです。そもそもこの書籍自体が既存のマス中心に行われている広告業界に対しての警告のような内容になっています。「最高の広告は広告ではない」という章があり

ウィキペディアで「広告」という項目を調べると、こう書いてある。
「広告とは、視聴者に何らかの行動を起こすように促すコミュニケーションの一形態である」
もし広告をこのように定義するなら、ベロシティという環境では、従来の広告は十分に
役割を果たせなくなってきていると思う。
 
広告は進化するにつれて、あらかじめ用意された情報ではなくて、リアルな質問に対する
リアルな答えを提供するものになっていくよね。広く一般に訴えかけようとするのではなく、
リアルなニーズを満たす交流やサービスを提供するようになる。
ただ「こうしたいな」と思って終わりではなく、お互いに話し合えるコミュニティを
作りだすようになる。
でも、そうなるともはや、「広告」という言葉で表現するのが適切かどうか分からないけど。

ナイキは、広告をつくっているんじゃない。ナイキは「驚き」をつくっているんだよね。

などなど、広告の現在と未来に対する様々なビジョンが描かれています。極めつけがこちら。章末に書かれている、

この話のまとめにぴったりなのが、マーシャル・マクルーハンが60年代に書いたこの一節。
広告にとって「情報革命」がどのような意味をもつかについて書かれた文章だ。
「すべての生産とすべての消費が、すべての欲望と努力にぴったり合致する時、
広告は自らの目的を遂げ、消滅することになるだろう」

という箇所です。この二人は、広告のあり方を変えて行かなければいけないこと、従来型の広告はデジタルにより消え行く運命にあるというビジョンを明確に持っている印象を受けました。このあたりのビジョンには非常に共感出来るところです(マクルーハンの本、ちょっと難しくて敬遠していたのですが改めて読まないとなと思いました)。

そしてFuelbandがそれを象徴するプロダクトとして描かれている印象を同時に受けました。Fuelbandが成功した要因として以下の様な一言があります。

発表当日の午後、先行予約の受付開始から67分で完売した。
それを成し得た理由は、それが単なる製品ではなく、「体験」だったからだ。

また、体験というものをより詳細に描いているのがこちら。少し長いですが引用します。

今日、最大にして唯一のチャンスは「製品やサービスを購入してもらった時点で、
消費者との関係が始まる」ということだ。従来の「認知・関心・欲求・行動」モデルでは
消費者を繰り返し引き戻すためのマーケティングに対して、延々に投資を続けなければ
なからなかったけれど、現在は、ほとんどすべての製品やサービスを充実させ、
本当に意味のある体験をつくりだせるようになった。
消費者が自分の情報を企業に渡すことを許可してくれた場合には、企業は、
その人に合わせてカスタマイズされた体験をつくり出すことができるんだ。
消費者が企業と交流すればするほど、企業はより多くの価値を返すことが出来る。
消費者がある企業に「ログイン」している状態というのは、ロイヤルティを築くのに
最も効果的な方法であり、また企業はエネルギーの矛先を
「製品のすばらしさをひたすら伝えること」から
「消費者がいつ、どこで、どうやって選んだものでも、その製品やサービスを
その人に快適なものにすること」へと切り替えることができるんだ。

今年からWebマーケティングの課題解決としてのゲーミフィケーションという観点で物事を眺めているのですが、そこで僕が強調しているのが「おもてなし」という言葉です。Webは本来ユーザとのリレーションを構築できる場であるにもかかわらず、非常に自動販売機的に作られている現状に課題意識を持っています。「おもてなし」の重要な意義の1つとして、ユーザとサービス提供者の間に中長期的な視点での関係性を作っていくということがあると思っているのですが、この書籍で書かれていることとも重なるところが多いと感じました。
ここで書かれているような、企業がその人に合わせてカスタマイズされた体験を提供すること、交流すればするほどより多くの価値を返すことが出来るようになること、ということはまさにおもてなしリレーションでも実際に行われていることです。
これまでのデジタル以前の社会では、ナイキのようなメーカーの立場ではこうしたリレーションをユーザと構築することは不可能だったわけですが、デジタルがそれを可能にし始めています。この書籍はまさにその変化を捉えたものではないかと感じました。
「おもてなし」というと言葉的には非常に属人的に聞こえるのですが、デジタルの力を使うことで属人的でなくてもおもてなし体験をユーザに提供することができる、と常々考えています。むしろそのような関係性を積極的に築いていくことこそが今後の企業活動に求められていることではないかとさえ思っています。Fuelbandがまさにそのような発想の人たちに作られたというのは非常に興味深いことです。

ただ、1つ残念だったのはゲーミフィケーションという言葉は非常に狭くこの書籍では捉えられていそうなことでした。

ブランドは「ゲーミフィケーション」のようなバズワードを誤解しちゃいけないと思う。
モバイルeコマースを改善したり、カスタマーサービスを向上することのほうが大事
なのに、そこを誤解してしまうと、むやみにミニゲームを作り始めることになってしまう。

ミニゲームを作ることがゲーミフィケーションではないんです!と機会があれば直接伝えたい^^; 彼らが語っている「体験」や「関係」を効果的にユーザに届ける、効果的に感じてもらうための手法としてゲーミフィケーションを捉えて欲しかった。
少なくとも僕らはそのようなものとしてゲーミフィケーションを捉えていますし、広告の未来が広告ではないとすれば、ユーザの体感価値を高めることで自分から行動を起こすことを促すゲーミフィケーションの発想はまさにその未来を形作る重要な要素になっていくと思っています。

 

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