gamificationの理論的背景:フロー理論

gamificationについて色々と調べていったり、あるいはそれ以前からゲームについての研究をしている人の話を聞いていると、必ずと言っていいほど出てくるのが「フロー理論」だ。

フロー理論、というのはアメリカの行動心理学者、ミハイ・チクセントミハイが提唱する理論で、人はどんな時に一番楽しさを感じるのか、ということについて説明したものである。この理論自体は1990年に出版された「Flow」という書籍に詳しく紹介されている。これは日本語にも翻訳されており、「フロー体験 喜びの現象学」というタイトルで出版されている。

これはもちろんゲームとは直接関連性のないところで生まれてきたものであり、むしろスポーツ、芸術、あるいは宗教といった幅広い領域での共通体験を理論化したようなものがフローという考え方だ。チクセントミハイ氏自身も記述しているのだが、フロー体験自体は彼が発見したというような性質のものではない。別の言葉で言えば「ゾーン」などとも表現されている状況と似たものであり、一流のスポーツ選手などの間ではよく実践されてきていたことであった。

この理論をわかりやすく図示すると下記のようになる。

縦軸にチャレンジ、横軸にスキル、がとられている。自身の有するスキルと、取り組んでいるチャレンジのバランスが高いレベルで吊り合っているときに人はフローに入ることが出来る、というのがこの図が示していることだ。バランスが悪い、つまりスキルが高すぎてチャレンジが簡単だと人は退屈を感じる。これが図の右下の状態である。また、スキルに対してチャレンジが難しすぎると人は不安を感じる。これが図の左上の状態である。また、自身の保有するスキルに対して容易すぎるチャレンジだとつまらないと感じる。これが図の左下の状態だ。直感的にも特に違和感はないし、様々な実験を通じて検証を行った、というようなことは本の方に詳しく記載されている。

では、このフロー理論がgamificationと一体何の関係があるのか。それは、人がどのような状態の時にフローに入っていくか、つまり「ハマる」状態を作り出すために必要な要件はなんだろうか、ということにある。このスキルとチャレンジのバランスの考え方は、ゲームをプレイする際にも基本的に同じことが言えるのは直感的に理解できるのではないだろうか。一般のTVゲームの領域においても、ゲームをつくっていく過程においてゲームバランスを考える際に、難易度設定は特に慎重なチューニングを要するところである。これはつまりこの図で示されている「フロー」、右上の状態を保ち続けることがユーザを惹きつけるために重要だというように説明ができる。このバランスが崩れた瞬間に、そのゲームは難しすぎる、簡単すぎる、単調すぎる、などということになって遊ばれなくなってしまう。よく出来たゲームというのは最初から最後までこのバランスが良い。

ゲーム以外のスポーツ、芸術、あるいは趣味の領域といったところでも同じだ。初心者であれば、初心者向けのレッスンや練習の仕方があり、中級者、上級者それぞれに合ったことをしないと上達感は得られないし、もちろんフローも体験できない。逆に、そこがうまいバランスで体験することが出来れば、やればやるほどスキルの向上が感じられ、以前出来なかったことが出来るようになり、さらに難易度の高いことに挑戦し、それが一層の向上につながる、といった好循環が生まれていく。

この考え方をgamificationで適用する、つまりWeb上のサービスでどのように取り入れていくのか、ということがgamificationデザインにおいて非常に重要なポイントになってくる。適用をしていくWebのサービスにおいて、スキルとは何に相当し、チャレンジとは何に相当するのか。それをじっくり見極めることが成功につながるだろう。