gamificationの理論的背景:自己決定理論

以前投稿した、「gamificationの理論的背景:フロー理論」にて簡単にフロー理論についての説明をした。「自己決定理論」は、gamificationを説明する上でフロー理論とともに頻発する概念である「外発的動機付け」「内発的動機付け」といったことについての理論的・学問的な裏付けとなるものである。

この理論も出自は心理学である。ロチェスター大学のエドワード・L・デシ教授が提唱した理論で、英語ではSDT(Self Determination Theory)と略されるようだ。金銭的な報酬はむしろ本来の意味での動機付けには役に立たない、ということを説明する理論である。「モチベーション3.0」でもこの内容は紹介されており、現状のビジネスシーンに合わせた形で説明されているのは記憶に新しい方もおられると思う。

これを非常にわかりやすく示す実験結果がある。大学生に、パズルを解くという問題を与え、問題への取り組み姿勢が報酬の有無によってどのように変わるのかということを実験したものだ。詳細は、デシ教授書籍「人を伸ばす力」に詳しいが、一部引用する。

彼ら(学生)は最初、報酬なしでも喜んでパズルに取り組んでいたのに、いったん報酬が支払われると、あたかも彼らはお金のためにパズルをやっているかのようにみえた。金銭という報酬が導入されたとたんに学生たちは報酬に依存するようになったのである。これまではパズルを解く事自体が楽しいと感じていたにもかかわらず、パズルを解くことは報酬を得るための手段に過ぎないと考えるように変わってしまったのである。報酬が内発的動機づけを低下させるというこの結果は、常識を揺さぶる、しかも科学的な見地からは大変刺激的な結果であった。

こうした一連の実験結果から、動機付けについてはデシは以下のように結論付けている。

外から動機付けられるよりも自分で自分を動機付けるほうが、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていたのである。正しい質問は「他者をどのように動機付けるか」ではない。「どのようにすれば他者が自らを動機付ける条件を生み出せるか」と問わなければならない。

この、自分で自分を動機付けるということを指して「内発的動機付け」と呼んでいる。上記実験では、金銭的報酬を用意した後では、いかに短時間にパズルを解いて報酬を効率的に得るかということにフォーカスが置き換わった結果、ある種の「ズル」すら見られるようになったということも報告されている。

デシによれば、内発的動機付けの基本的な要素としては

  1. 自律性
  2. 有能感
  3. 関係性

の3つが挙げられている。自律性や有能感という概念についてはフロー理論にも類似する説明がある。自分で自分をコントロールしている、自分の意思で選択している、といった状態が自律性であり、良くできている・うまくやれているという感覚が得られるのが有能感である。興味深いのは「関係性」という概念である。人同士の関係性に触れているという点は、gamificationあるいはソーシャルWebな世界を考える上で示唆が大きい。

この自己決定理論からgamificationが学ぶことが出来る点、あるいはもっと言えばgamificationが目指すべきことが見えてくる。つまりgamificationの本来の目的は、ユーザが内発的に動機付けられるようなきっかけをサービスに導入することで、そのサービスの利用を促進するということだ。自分からもっと使いたくなるような、自分から他人にも勧めたくなるような、そのようなきっかけを提供するのがgamificationの役割となる。


関連投稿 gamificationの理論的背景:フロー理論